タイ・カンボジアの陶磁器・民族衣装など歴史的遺産の宝庫・ヨコタ博物館

《 第七号 》
タイ国の先史土器・バンサンルーの黒色土器

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タイ国の先史土器
バンサンルーの黒色土器

バンサンルーはバンチェンの東部に位置しており、バンチェンと同じく水郷地帯である。七、八年前に訪れたのが最後で、その後は特別の情報もなく、長い間訪ねていない。近々、一度尋ねてみようと思っている。タイのどこにでも見られるのんびりとした農村である。集落地と水田との高低差があまりなく、雨季には洪水で大変ではなかろうか。しかし国道と同じ位の質の高さから見て、バンサンルー周辺が全般に高くなっているのであろうか。私は雨季に尋ねたことがないのでわからないが、数千年前から住んでいたという事は、洪水にもほとんど影響されなかったのであろう。

バンサンルー部落の至る所の屋敷に、七、八〇センチの丸いくぼみにバナナの木が植えられ、宝物を掘った跡をカモフラージュしている。

バンサンルーの黒色土器は、肌が磨かれ大変美しく、一見金属器にも見えるほどである。器形は高杯・高台付き・丸底などがあり、口は丸形と正方形とがある。正方形にも角が突き出ていて高くなっているものと、角が低く全体に円みを帯びているいるものがある。高杯には下部に簡単な文様が掘られたものがあるが数は少ない。口径は一五センチから二〇センチ位の中形である。この黒色土器は気品があり、美術的にも考古学的にも優れた文物である。

小型の黒色土器には胴が太く上に行くに従って細くなり、首から上は直線的に開いた口になっている。胴の一番太い所か、その少し上に胴を一回りする蛇文が施された黒色土器もある。

バンチェンの黒色土器とバンサンルーの黒色土器を比較した場合、多くの相違点が見られる。バンチェン黒色土器は一面に線刻または縄文が施され艶やかであるのに対し、バンサンルー黒色時は線刻されたものもなく少なくまた線刻紋様も簡単で地味である。その後の年代に作られたと考えられる灰色土器、彩文土器にもこの伝統が引き継がれている。(ヨコタ博物館に展示)

一九四〇年頃日本軍によって発見されたと言われるカンチャナブリー県バンカオ地区の黒色土器も磨きがかけられ、バンサンルーの黒色土器と若干の共通点が見られる。バンカオ出土の黒色土器で、他では見られない逆円錐形をした三本足の器物がある。この器物は、バンコク国立博物館、または現地の博物館で見ることができる。