タイ・カンボジアの陶磁器・民族衣装など歴史的遺産の宝庫・ヨコタ博物館

《 第四号 》
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謎の渡来壺

一〇年前になりますが、新聞紙上で報道されたから、ご記憶の方もいられると思いますが、輪島の海岸からタイ国の古い陶磁の壺が出土したと写真入りで報じられた。出土地は石川県輪島市の大沢海岸で、灰色の無釉壺で胴の中央部と下方に線輪が彫られ上部に押型の模様が施された四耳壺で、器形・技法など一二世紀頃のクメール壺の影響強く受けたと思われる。

この壺は現在石川県押水町の教育委員会に保存されており、私は数年前この壺を拝見させていただいた。

この都合は一三~一四世紀にスコータイ県バンコーノイ村で作られた作品で、二種類の魚卵が付着しているのが見られる。一種は一耗ほどの卵が一列に産み付けられ、あたかも黒色の藻が付着しているように見え、もう一種は繭の形をした、これも長さ一耗ほどの白い卵である。同一器物に二種類の卵が付着している事は大変珍しい。この二種類の魚卵は、タイ国首都バンコクの北八〇キロの地点にある古都アユタヤを流れるチャオプラヤー川から引き揚げられた陶磁に見られ、同一魚卵であると思われる。チャオプラヤー川は、淡水で、そこに棲んでいるのは淡水魚であると思う。したがって、海水である「大沢海岸から出土した」とは考えられない。このことから考えられる事は、近い時期にチャオプラヤー川から引き揚げられた壺が日本に渡来してきたものと思われる。

また、大沢海岸から出土したと言っていた元の所有者が亡くなられているので詳しいことが聞かれなかった。この壺が大沢海岸から出土したとして一人歩きをしかかっていることに疑問を持つもので、一日も早く淡水、または海水魚の卵か魚類学者の調査が待たれる。現在も乾季の暖かい日には、チャオプラヤー川からアユタヤ時代に焼かれた低火度の土器、スコータイ・宋胡禄陶磁、中国・ベトナムの青磁、染付陶磁などが引き揚げられている。当館に、同等の壺数点、チャオプラヤー川から引き揚げられたぎょの付着した器物も収蔵している。